今日の一曲:鈴木慶一とムーンライダース ”火の玉ボーイ”

9月の後半になって、急に秋らしい気温になった東京。そんな季節の移り変わりを受けて、9/22のNEWSOUNDはしっとりとした質感の音楽に、消えゆく夏の気配をノイズに込めて選曲しました。今回紹介するのは、この日のセットの最後の方にプレイした、鈴木慶一とムーンライダース「火の玉ボーイ」です。1976年にレコードが発売され、これまでに何度かCDとしてリイシューもされている、日本のオルタナティブロックの傑作アルバム『火の玉ボーイ』。このアルバム、当初は鈴木慶一のソロアルバムという体で制作されており、名義こそ鈴木慶一とムーンライダース(このアルバムでは「ムーンライダー”ズ”」でない)になっていますが、ティン・パン・アレイ、ラスト・ショウ、南佳孝、矢野顕子らが録音に参加しています。アルバムタイトル曲である「火の玉ボーイ」は、東京という街にまだ暗い夜があった頃の匂いを存分に感じさせる曲。都市に闇があり、謎があれば、何も起こらなくても探偵気分というようなジャケットのアートワークは、この曲を非常によく表しているといえます。薄暗い横丁からふらりと見知らぬ人が出てくるようなイントロから、曲の世界にグッと引き込まれるでしょう。聴き所は、フェードアウト少し前に出てくる、矢野顕子のスキャットと、林立夫のドラムのスリリングな掛け合い。奇跡的なテイクだと思います。そうそう。現在原宿の「TOKYO CULTUART by BEAMS」では、菅原一剛さん、武井義明さんというふたりの写真家が撮影したムーンライダーズの写真展を開催しています(10/17まで)。この記事を読んで興味を持った方はぜひ足を運んでみてください。ちなみに、ムーンライダーズという名前は、稲垣足穂『一千一秒物語』の中の一篇からとられたもの。秋の夜長、足穂と「火の玉ボーイ」なんて、なかなか素敵ではないでしょうか。

(青野賢一)

9月 29, 2012 by Tsurutani
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