今日の一曲 : Gavin Bryars “Jesus’ Blood Never Failed Me Yet”

クリスマスを目前に控えた12/22のDJは、世間の賑やかな様と対をなすような、厳かな曲をたくさんプレイしました。Messiaen『世の終わりのための四重奏曲』、Chick CoreaとSteve Kujalaによる『Voyage』などから選曲したクラシカルな楽曲、Far East Family Band、Brian Enoらのアンビエントチューン、NEWPORTではよくかけるErik Satieといったラインナップとともにセレクトしたのは、現代音楽家Gavin Bryars「Jesus’ Blood Never Failed Me Yet」。
Gavin Bryarsはイギリスの作曲家。最初期の作品では、沈みゆくタイタニック号の甲板で、最後まで演奏を続けた楽団の曲を様々な証言や資料を元に再現した『The Sinking of the Titanic(タイタニック号の沈没)』がよく知られています。今回紹介する「Jesus’ Blood Never Failed Me Yet」は、1971年の作品。初出は、先の『The Sinking of the Titanic』のB面として、Brian EnoのObscure Recordsからリリースされたものです。荒廃したロンドンの様子を収めたドキュメンタリー(これはGavin Bryarsの友人が撮影し、Gavin Bryarsが音楽を担当している)に映っていた、ホームレスが口ずさむ宗教歌をテープループの手法を用いて繰り返し、そこにオーケストレーションをつけていくというこの曲は、前記のレコードに25分ほどの作品として収録されましたが、その後CDというメディアの台頭に合わせて70分を越える作品として1993年に再び録音、リリースされました。
1993年版には、オリジナルになかったTom Waitsのボーカルが最後のセクションとコーダに加えられており、今回NEWPORTでプレイしたのは、その部分です。鼻歌のように力のないホームレスの声に、徐々に寄り添ってゆくTom Waitsの嗄れた歌。静かに変化するオーケストラ。このパートだけでも20分近くありますが、なるべく長く聴いてもらおうと思い、途中で切らずに最後までプレイしました。曲が流れた瞬間から、空気が透き通るような神々しいこの曲は、年末年始に心落ち着けて聴きたいものです。静寂が支配する真冬の深夜に聴いたら、思わず涙しそうな一曲といえるでしょう。和訳は「神の血は決して私を見捨てたことはない」。久しく廃盤だったのですが、最近再発された模様です。

(青野賢一)

12月 28, 2012 by Tsurutani
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